INTRODUCTION

of corporate cases and initiatives

取組事例紹介

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2022.03.30
岡本製甲株式会社 代表取締役 岡本 陽一 氏
PROFILE
父親の経営する会社、岡本製甲株式会社に入社。OEM商品だけを製造する会社のスタイルに疑問を感じ、お客様に喜んでもらえるような靴を自社オリジナルとして作りたいという思いから、自社ブランド”Lafeet”を立ち上げる。以来10年以上、”お客様の足を守る靴”をコンセプトに、”Lafeet”を進化させ続ける次世代経営者。
インタビュアー:天野博文
高梁川流域クロッシング
プロジェクトリーダー
株式会社クラビズ 新規事業開発室 室長
Okamotoseikou Co., Ltd.
危機感から始まった自社製品開発。
コラボレーションで「世界初」を生み出しつづける。

OEMメーカーとして業歴を重ね、危機感の中で自社製品開発をスタート

まず貴社の事業内容を教えてくださいますか。

昭和25年に革靴の製造販売店として創業したのが始まりで、その後昭和39年に岡本製甲株式会社を設立し、会社組織として発足しました。高度経済成長の時代とともに当社の売上も拡大し、OEMでのゴルフシューズの製造を専門に行うメーカーとして、長く事業を行ってきました。

その後、平成14年に野球シューズの製造を開始し、ランニングシューズにも参入した後に、平成20年に最初の足袋型シューズ「VALTAIN-X」を発売しました。

岡本製甲といえばオリジナルの足袋型シューズのイメージが強いですが、会社の歴史の中では新しいことなんですね。OEMメーカーから転換するきっかけはどんなことだったのでしょうか。

背景として、OEMのゴルフシューズ専業でそのまま事業をやっていけるのかという危機感がありました。バブル崩壊後に日本経済が大きく落ち込んだのと同じくして、当社の売上も落ち込むことになりました。

そうした状況の中で、人とのつながりが、足袋型シューズ開発の直接のきっかけとなったと言えます。

私の大学時代の野球部の先輩が高校野球の強豪校でコーチをされていて、その関係から訪問してみると、地下足袋を履いて練習をしていました。理由を聞くと、高校生は足の力が弱く、地面を握る力が弱いので、その力を鍛えるために地下足袋を履かせているという話でした。

ですが、地下足袋では耐久性が低く、ケガの可能性もある。地下足袋のような特徴を持った野球用の靴をつくってほしいということになり、野球のトレーニング用として開発したのが、当社の足袋型シューズのはじまりです。

互いの目的をすり合わせ、共同研究を成功に導く

御社の足袋型シューズの特徴を教えてください。

大学との共同研究で足の動きを解析し、そのデータを活用した製品だというのは、大きな特徴です。

ずっとOEMで製造してきた会社が、足袋型で足に良いシューズを開発したといっても説得力がありません。そこで銀行に相談し、エビデンスを得られるところと連携するのが良いということで紹介されたのが岡山大学です。そこから10年にわたる共同研究で足の動きの特性を解析し、得られたデータを活用して足に良いシューズを開発しました。

10年の長期間にわたる共同研究において、苦労した点はありましたか?

最終的にはビジネスに有効なデータを得たい私たちと、研究として興味深い成果を追求したい研究者。そのギャップによって、一時は研究が思うようにまとまらないことがありました。
私たちにとっては、足袋の特徴である足の土踏まずより前側の動きが興味深く、必要なデータ。一方で、研究者にとっては足が地面に着地する際の全体の動きの方が興味深い。ということがあり、共通して目指すべき方向がなかなか定まらない。

そうしたときに、なぜ私たちの求めるデータが必要か、それが何の目的につながるのか、という共通認識を得るために、何度も研究者と直接話し合いを行いました。

バックグラウンドが異なる相手と連携する際は、お互いの価値観や前提が異なります。それを理解した上で、目的がズレないようにすり合わせたり、ズレてきたら調整したりというのは、難しい点であり面白いと感じた点でもあります。

ここが上手くいかないために、共同研究などの連携で成果が出ないケースも多いと聞いています。

人との出会いで、さまざまな商品を生み出す

野球に始まり、ランニング、医療用など、足袋型シューズの用途を拡大してきていますが、事業を展開するうえで、どのような点を大切にされていますか。

何より人との出会いを大切にしています。野球用トレーニングシューズの開発でも、大学との共同研究でも、人と出会い、連携することが成果につながりました。

例えば看護師用については、巻き爪の問題に取り組む会社に誘われて、足に関する学会に参加したことが開発のきっかけです。

その学会には看護師の方が多く参加されていて、聞くと、フットケア外来というところで勤務している。その外来で患者さんと接する際に、外反母趾などの足の問題を抱えた患者さんにオススメできる靴がない。

足袋型シューズだとおススメできそうなので、まずは看護師さんたち自身が履いてみようということになり、試していただくと大変な好評でした。もうそのままナースシューズとして履きたいということで、医療現場で履ける看護師用のシューズを作ったという流れです。

また、フランスの会社とコラボしたトレイルラン用シューズも出会いがきっかけです。取引先に紹介されてその会社の社長に会ったときに、足袋型シューズが面白そうだねという話をいただいて、その社長にプレゼントしました。

すると、その社長がトレイルランのランナーで、実際に大会で履いてとても良い成績が残せたということがあり、そのことで足袋型のシューズを共同で作ろうという話になり、商品化が実現しました。

足袋型シューズの製造技術は奥が深く、その技術は当社が固有に磨いてきたものです。それと、人との出会いで得たアイデアを組み合わせ、世界にひとつしかない製品を生み出していっています。

面白いですね。他にも事例はありますか。

トレイルラン用のシューズ開発の際に非常に困った防水性の問題も、人からアイデアをいただくとことで解決することができました。

トレイルランは山の中を走るので、雨でひどく水がたまったところを走ることがあり、そうすると靴の中に水が入ってくる。足袋型シューズの防水性を高めるという点に非常に困っていたときに、私たちが中国での製造を委託している工場に赴いて相談すると、別の用途での防水方法を教えてくれたんですよね。それを足袋の股の部分に転用することで、高い防水性を実現できた、ということがありました。現地に行って人と話をすることの重要さを実感した事例です。

固有の技術とコラボレーションで、ブルーオーシャンを切り拓く

足袋型のシューズに競合は存在するのでしょうか?

競合はないと私は思っていて、ブルーオーシャンの市場※だと捉えています。先ほどの防水性のことも足袋型シューズへの転用だから目新しさがあるものだし、何をやっても世界初ということになります。世界初の足袋型トレイルランシューズであり、世界初の足袋型野球スパイク、世界初の足袋型ゴルフシューズです。

他に、150年ぐらい続く京友禅の会社の生地を使ったシューズがありますが、それも足袋型シューズと交わることで、より日本的で、かつ独自のものになります。

足袋の形は日本の文化を感じさせる側面がとても強いですよね。例えば世界には高級靴や有名スニーカーブランドなどもありますが、日本の会社である当社が足袋型シューズを製造することで、世界にも類を見ない、独自の製品を世の中に出すことができると感じています。

最近はサウジアラビアに輸出したり、インドネシアのブランドとコラボレーションを進めたりしています。これまでフランスやイギリスのブランドとコラボレーションをしたこともあります。足先が割れた足袋の形状になるだけで、急に日本独特のものになっていくところに、私は非常に可能性を感じています。

もちろん、現在の製品には、改善すべき点もあります。野球用のスパイクでは履いていて、合う選手と合わない選手がいる。耐久性をより向上させる必要がある。でも、足袋型シューズのそんな問題を解決するために開発会議をしている会社は、世界で当社しかないですよね。それだけでちょっとワクワクします。
※ブルーオーシャン……ビジネスにおける未開拓の市場のこと

社員とともに、足の問題のない世界を目指す

今ではラインナップも拡充してきている中ですが、御社としてこれから実現したい夢をお聞かせいただけますか?

それは明確になっていて、今ちょうど子ども用も開発していますが、歩き始めから一生足袋型のシューズを履いていただいて、そうした人が、足で悩むことがなかったという世界にしたいと思っています。

足で困っている人は今とてもたくさんいます。足の変形や外反母趾、タコや魚の目など。もちろん遺伝的なものや歩き方が影響していることもありますが、それらの原因の大半は靴にあります。裸足で暮らしている民族には外反母趾が無いという話もあります。ということは、靴が原因で足の疾患が引き起こされている。

人の足はもともと前が広くなっていて、着地の際にはそれがさらに広がる。なのに靴は全部足先が細くなっている。結局足の疾患というのは、広がる足先の部分に集中している。それは足先が圧迫されているから。

足袋型だと前が広いし、なおかつ指が動かせるような形状にすることで、足に負担をかけない。そうして足に困る人を減らす。そういう世界にしたいと思います。それが目標です。

最後に、社外との連携も含めて、御社で解決したい課題があれば、お聞かせいただけますか。

社員にどうすれば力を発揮してもらえるかというのは、常に課題として考えています。収益を出して社員に還元するためにも、社員を伸ばすための教育をどのように行うべきか、この点は、社外の力も借りて勉強したいと思っています。

当社には韓国、中国、フィリピン、ベトナム国籍の方など、多様な社員が在籍しています。そうした多様な人たちと一緒になって成長していく。その方法を身につけることが、当社にとって重要です。

足袋型シューズがより普及することで、足の問題で困る人を無くす。その実現のために、社員の力が欠かせません。コロナもあり、当社にとって決して順風な状況ではないと言わざるをえません。かといって歩みを止めるのではなく、将来に向けて人材に投資していきます。
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