シバセ工業株式会社 本社営業部 部長 玉石 一馬 氏
PROFILE
1949年芝勢興行株式会社として精米麦・素麵加工販売業を始め、1969年にプラスチックストローの生産を開始。2006年にはシバセ工業へ社名を変更する。海外製ストローの流入や環境保護の影響から経営危機に陥るも、2007年には工業用ストローの本格的な生産を開始。その後も、数々のオープンイノベーションを経て業績のV字回復を実現した。
インタビュアー・ライター:杉原未来
撮影:難波航太
オープンイノベーションで生まれる「飲むだけで終わらないストロー」の活躍
日本のストロー業界を牽引するシバセ工業様ですが、当初の精麦・麺加工の事業から現在のストロー事業に舵をきっていかれた流れを教えてください。
昭和30〜40年代、岡山県は麦の生産が盛んで、精麦・麺加工事業者が多数存在していました。アメリカでストロー文化が浸透すると、その文化は日本に渡り、麦わら帽子の材料などに使われていた岡山産麦の丈夫な幹がストローとして使われ始めます。その頃、多くの精麦・麺加工事業者がストロー事業へと転換しました。高度経済成長期における飲食店増加とプラスチックストローの登場によりストロー需要は爆発的に拡大。岡山県南西部を中心にストローメーカーが増えていきました。
シバセ工業のストロー事業立ち上げは比較的後発でしたが、そのおかげで受注先が少なく生産供給体制にも余裕があったので、江崎グリコ株式会社さんからの大きな案件を受注できる余力がありました。子ども向けの紙パック飲料に付属させるストローの発注で、この案件がストロー事業の成長点だったといえます。
業界でのシェアや立ち位置を教えて下さい。
日本のストロー市場は2つに分類されます。1つは弊社が生産する、飲食店向けの「業務用ストロー市場」、もう一方は、紙パックジュースやプラカップのコーヒー等に付属している「飲料メーカー向けストロー市場」があります。シバセ工業が生産しているのは100%業務用ストローであり、商社を通して飲食店に流通しています。業務用ストロー市場で最も大きい市場はマクドナルドやスターバックスをはじめとする大手チェーン店ですが、そのどちらも輸入品を使用しています。業務用ストロー市場のほとんど8〜9割は輸入品が使われていて、国産ストローは市場の1〜2割程度。その国産市場の約7割をシバセ工業の製品であるというシェアの状況になります。
「飲むだけじゃないストロー」という新たなカタチ
「オープンイノベーション」を目指し社内・社外でのリソースの循環を意図的に作ってこられたと思いますが、「オープンイノベーション」への取組をはじめたキッカケを教えて下さい。
2001年、ストローメーカーとしてホームページを開設したことをキッカケに、顧客から「工業製品の部品としてストローを作れないか?」という問い合わせが増え始めます。プラスチック製の工業用パイプやチューブとしてストローを使用するため、飲料用とは全く用途や目的が異なり、寸法(長径や長さ)の精度が要求されました。この時から、メーカーとして製品の品質や技術が更に研ぎ澄まされたのです。
飲料用以外の活用例を「シバセ工業の技術」としてホームページ・DM・展示会などの様々な場所で公開しました。「顧客ニーズにシバセ工業の持ち得る全ての技術で応えたい」と思い、オープンイノベーション戦略を始めたのです。
「オープンイノベーション」の取組をはじめた当初ならではの苦労や課題を抱えたエピソードや、それをどの様に乗り越えたのか教えて下さい。
顧客の要求には様々なものがあり、過去のデータが無い要望に苦労しました。例えば、ストローを希望の形状にしたい、材質を柔らかくしたい、といった内容です。
断る事は簡単ですが、断ればお客様との繋がりは何も残りません。「検討します」と返答し、社内で技術検討と実験検証を繰り返し、受注します。常に改善・向上を意識して取り組み、その中で顧客が求める精度や形状・機能など製品の仕様に関して、社員でアイディアを出し合いながら乗り越えてきました。
閃きを実現することで培った「多分野展開のノウハウ」
工業用や医療用などの多岐にわたるストローの活用例がありますが、分野展開はどんな流れですすんでいったのでしょうか?
全てオープンイノベーション戦略による「顧客ニーズへの応答」の賜物です。技術公開する事で、どの顧客も、「この部分はストローで代用できないか?」という「閃き」により問い合わせて来られます。
例えば、「車のサイドミラーに使われる歯車の傷つき・摩耗を防ぐため、ストロー状の容器に収納できないか?」と、ある部品会社の社長から相談を受け、専用ストローを製作しました。そちらの会社では、歯車の品質向上はもちろんのこと、収納や検品が簡単になったため作業スピードも向上。多岐にわたる分野展開は、そうした「閃きの実現」の積み重ねになります。
外部との連携に伴い、意識されていたことなどがあれば教えて下さい。
いかに我々メーカーの技術を知ってもらい、顧客に「このメーカーであれば今の自社の課題をクリアできるかも」と思わせるかを意識しました。弊社にとってオープンイノベーションにおける外部とは、ほとんどが顧客です。技術を公開する事で、他社にノウハウを使われたり、全く同じ模造品を作られたりというリスクも生じます。ただ、そうしたリスクよりもリターンの方が遥かに大きいので、あえて包み隠さず公開しています。
オープンイノベーション特有の苦労もチャンスに転換
同様に、異業種の企業との連携で苦労したことを教えてください。企業風土の違いなど、苦労や課題を乗り越えたエピソードがあれば教えて下さい。
異業種企業は社風や環境が大きく違うので、「製品に要求されるレベル」の認識に差異が生じるため、深い意思疎通が重要です。
とある企業との打ち合わせの際に、一般的な専門用語だけでなく、その企業内でのみ通用する専門用語が飛び交う場面がありました。そういった中でも相手を想いやり、お互いが納得できるような案を考えることを第一に考えて、忍耐強く話し合いを進めたのです。異業種交流を重ねていくうちに顧客ニーズを具現化する力がつき、どんなプロジェクトにも取り組むことができています。
さいごに、今後一緒に活動したい企業があれば教えて下さい。
シバセ工業と同じように、小さくてもオンリーワンの技術を持った中小企業と一緒に活動したいと考えています。異業種の方々と共に新しい市場を開拓していきたいです。