INTRODUCTION

of corporate cases and initiatives

取組事例紹介

03
2022.03.29
ファーマニック 代表 谷本 聖 氏
PROFILE
笠岡市出身。留学したカナダでオーガニック文化に触れ、日本と海外との食に対する考え方の違いに大きな衝撃を受ける。帰国後『FARMANIC』を立ち上げ、農産物の生産やオーガニックに関わる料理のイベントなどを主催。現在は牧場、焼肉屋運営、友人のカフェでカレーの提供をしています。笠岡市にある畜産農家「谷本牧場」は祖父の代から続く家業。
インタビュアー:秋葉優一
高梁川流域クロッシング
プロジェクトマネージャー
株式会社クラビズ 代表取締役
FARMANIC
若き畜産農家が起こすイノベーション。
「食」を軸にした循環拠点づくりを目指す。

「乳牛から肉牛へ」笠岡干拓地で発展した谷本牧場
食の安全に目覚めるきっかけは、カナダでの「オーガニック」との出会い

谷本さんの家業である谷本牧場について教えてください。

始めたのは祖父です。最初は乳牛で父親の代から肉牛に変わり、30年ほど前に笠岡干拓地ができてからは、そこに牧場を移して規模も大きくなり、今は、600〜700頭飼っています。全国のスーパーなどで販売され、笠岡で牧場直営の焼肉屋もやっています。

どういった経緯でカナダへ行かれましたか?また、カナダでの生活はどんなものでしたか?

高校を出て実家の谷本牧場に入り、5年ほど続けたのち、牧場以外のことは何も知らない自分に気がついて、世界を見てみたいと思い立ちカナダのトロントへ行きました。
カナダでは英語の勉強をしながら、街で趣味の写真を撮ったり、クラブに行ったりしていました。そうした中、大きなスーパーでオーガニック※の食材が当たり前のように売られている光景に大きな衝撃を受けました。日本とはまるで違っていて…… あれ、本当はこんな風にオーガニック食材を日常的に手に取れることが「普通」なんじゃないか。昔は日本もそうだったのではないかと。カナダに行くまでは、オーガニックを強く意識したことはそれほどなかったのですが、そこで目にした、生活とオーガニックが普通に結びついている価値観には考えさせられるものがありました。
※オーガニック(Organic)……一般的には「有機」という意味。農薬などを極力使用しない栽培法で農業に限らず水産業、畜産業での加工方法全般を指す言葉。
※(撮影/谷本聖)

帰国後の運命的な出会い
地産地消の食文化の発信に手応え

留学を終えてカナダから帰ってきて、牧場に戻られたんですか?

帰国後は牧場に戻り、地元の食材を使ってイベントができないか模索していました。そんな時、コペンハーゲンで働いている日本人シェフと出会いました。彼と話すうちに「これがオーガニック食材だ!」というような押し付けがましいものではなく、安全でおいしいものを食べてもらって、その良さをシンプルに感じてもらえるようなイベントをやりたいねと意気投合し、一緒に企画をすることにしました。それが、帰国して約一年後に開催した、地域のオーガニックの野菜と肉や魚などを使い、自信を持ってお勧めできる料理として提供した「FARMANIC meets Restaurant Kabi※」です。
※Restaurant Kabi……発酵食レストラン。現在は東京。http://kabi.tokyo/

イベントを終えての評判や手応えはどうでしたか?

手応えはありました。「おいしい」と言う声をいただいたのと同時に、野菜や肉の料理の仕方、その食材をどうやって育てているかなどをしっかり伝えるイベントになったので、お客様も凄く興味をもって楽しんでくれていました。この時、お客様の喜ぶ笑顔を眺めながら、これから進みたい方向への想いが湧き上がってきたような気がします。

その後も続けてイベントをされていますが、谷本さんはどんな思いで取り組んでいるのでしょうか。

まずは、地元の人たちに、地元の食材を使ったおいしいものを食べてほしい、そしてそのおいしさを自然に感じてほしい、それが一番です。オーガニックの食材のおいしさをシンプルに伝えたい。今多くの人たちが自然に味わえなくなっているのではないかと思います。
料理には地域の風土や文化、そこには生産者がいて彼らの想いなども含まれていて、単純に食欲を満たすものだけではないと考えています。例えば、今はサラダ一つとっても、野菜じゃなくてドレッシングの味で食べていませんか?と。お肉もそうです、タレを食べているみたいになっているような…… そうじゃなくて本来の食事の意味や大切に育てられた野菜の味、そういったことを感じてほしいと思っています。

畜産農家で育ち、継ぐことは決まっている。ならば進む道を畜産を主体に考えそうですが……

確かに活動では、自分の牧場の肉を前面に出していないように見えるかもしれません。でも最終的には谷本牧場の肉を地域でしっかり消費してもらいたいという思いが根底にはあります。肉であっても野菜であっても、安全安心な食べ物を広めていきたいという思いはあります。

これからの畜産業界、谷本牧場についてどのようにお考えですか。

地元から自分にできることで、変えていきたいという想いはあります。ただ、今の規模でオーガニック牛を育てるとなると、膨大な土地が必要で、餌も国産にするとなると、非常にハードルが高くなります。今は、無農薬で大豆や麦を作り、その原料を使った豆腐のおからを餌に混ぜることで、こだわった飼育を一部しています。
また、山地酪農※も考えています。山地酪農は土地の確保もさることながら近隣住民の許可が必要のため、簡単な話ではありませんが、畜産業を営む身としては将来的にその方面への想いもあります。
※山地酪農……山で牛を飼う酪農のこと。放牧された牛は自由に歩き回り山の草を食べストレスなく過ごせる。

生産者・消費者・地域社会の拠点として、
地域経済循環による産業活性化を目指す

これからやって行っていきたい取り組みはありますか?

まずは新たな活動拠点を持ちたいと思っています。そして、食や暮らしに関する色々なコンテンツや色々な人が集まる「場」を作りたいです。
農家の方が直接野菜を売ったり、また、その野菜を使ったメニューを地元の作家の方の器に盛り付け提供する。そこではおいしくて安全な食が楽しめたり、その器なども購入できたり、生産者、消費者、地域社会が自然に循環できる、そんな場所をみんなで作ることが理想です。

そういった場を作ることで、解決したいことはなんですか。

農業は体力も気力も必要です。特に自然農法、自然栽培は大量生産に向いていないので、継続するためにも収入が安定できる仕組みを作ることが必要だと思っています。
野菜がどのように作られているとか、こんな手間がかかっているとか、生産者の方が発信できる場所を作り、消費者の方がそれを知った上で、そのおいしさの価値を感じながら食べてもらえるような環境にしていきたいと考えています。

谷本さんのやりたいことが、屋号である『FARMANIC (ファーマニック)』の由来ですね。

そうですね。大切にしていること、伝えていきたいこと、ファームとオーガニックを組み合わせました。
「地域のものを地域で消費される社会を作りたい」と言っている尊敬している人がいるのですが、僕もそう考えています。それは形骸的な地産地消ではなく、もっとリアルに継続している社会。そうしたら岡山の人達、幸せになれるじゃないですか。循環としてそれが一番良いと思っています。
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