INTRODUCTION

of corporate cases and initiatives

取組事例紹介

ヨイキゲン株式会社× 岡山県立大学
PROFILE
(右)
ヨイキゲン株式会社 代表取締役 渡邊信行
明治40年(1907年)創業。地域密着の地酒蔵として、日本酒の醸造と岡山県ならではの果物のお酒を多数手掛ける。地元の米と水にこだわった手造り少量生産の日本酒は、岡山県備中地域の温暖な気候をあらわしたような柔らかな味わいで全国にファンが絶えない。

(左)
岡山県立大学 保健福祉学部栄養学科 教授(医学博士) 田中晃一
酵母をはじめとする微生物の研究が専門。1995年に東京大学大学院医学系研究科を修了、1996年から東京大学大学院医学系研究科で助手を務めた後、2001年にResearch Institute of Molecular Pathology (オーストリア)に留学。2004年に帰国し、東京大学分子細胞生物学研究所、京都大学微生物科学寄付研究部門、京都大学大学院農学研究科を経て、2015年から現在の岡山県立大学にて発酵食品関連の研究に着手。
インタビュアー・ライター:杉原未来
撮影:難波航太
フルーツ酵母で日本酒の個性を醸す/総社市の産学連携プロジェクト

学生の希望から、総社で貴重な産学連携プロジェクトへ

地酒蔵と大学のコラボレーションという珍しい組み合わせですが、どのようにコラボが始まったのでしょうか?

田中教授
私の研究室では食品に関わる微生物の研究をしており、特に「発酵食品」に興味を持った学生が研究をしにきます。2021年に配属された日本酒好きの4年生の学生が、ヨイキゲン株式会社の渡邊社長と引き合わせてくれました。
その学生はヨイキゲンさんの蔵開きにも参加したことがあり、渡邊社長とは以前から面識がありました。さらには、私の研究室に配属された時点で、「日本酒の醸造に使える酵母を探すというテーマで卒業研究をしたい」という希望をもっていたんです。

渡邊社長
「日本酒好きで酵母の研究もしている方」ならば是非とも応援したいという気持ちで協力しました。酵母だけでなく、ラベルデザインも岡山県立大学造形デザイン学科の学生さんにお願いしています。岡山県立大学さんと一緒にお酒が造りたいと思い、今回の産学連携が叶ったんです。
左:田中研究室の学生(当時) 右:渡邊社長

連携することで、どんな成果やシナジーが生まれましたか?

渡邊社長
酵母を自然から採取する技術や自社培養の技術は、私たちにはありません。優秀な酵母を使わせていただけたことが、一番助かった点です。おかげさまで、「特徴ある酵母」によって「特徴あるお酒」を造ることができています。

田中教授
大学はお酒を造る技術を持っていません。ですから、せっかくおもしろい酵母を採取できても、使ってくれる企業さんが見つからなければ活用する手段がありません。日本酒は初めての試みだったこともあり、今回の連携自体が大きな成果でした。

渡邊社長
加えて、全てが総社市発のものであり、地域を盛り上げるというシナジーもあったと思います。

地域を盛り上げたいという気持ちは元々あったのでしょうか?

渡邊社長
我々は「地酒屋」ですから、なるべく地元のものを使うという意識が根づいています。お米も水も地元の物を使っていて、この度、地元総社で作られたメロンや白桃から採取できた酵母も加わりました。これで本当の「メイドイン総社」となり、自信をもって「地酒」と言えるお酒ができました。

田中教授
我々は岡山県立大学なので県に対して貢献したいですし、総社市にキャンパスがあるので総社市とも連携したい気持ちがありました。総社では産学連携の実績はほとんど無いため、大学としても地域としても貴重なコラボレーションができて良かったと思います。

自然酵母は「見つける」にも「醸す」にも一苦労

連携する中でどんな苦労がありましたか?

田中教授
期待通りに酵母が採取できないという苦労がありました。当然ですが、酵母は目で見えませんから、どこにいるか分からないのです。また、運よく採取できたとしても、酵母は自然界に何千種類も存在するため、お酒を醸すことに適した酵母である確率はとても低いです。発酵力が強い酵母でないとアルコール度数が上がりませんし、食べても安全な酵母でないと食品には使えません。まず酵母を採取できる確率が10%程度で、更に発酵力が強いのか、安全なのか、というフィルターにかけられると、ほとんどの酵母は選ばれません。連携の苦労というよりは、酵母を見つけ出すまでにかかる苦労と言えますね。
渡邊社長
酒造りに関しては、初めて使う酵母の上に野生酵母だったため、どんな味になるのか予想がつかなかったことが苦労した点です。使い慣れている酵母は発酵の流れが読めるのですが、初めて使う野生の酵母は調整が難しかったです。

クラウドファンディングを利用していたので、前もってお酒のスペックを公表しているというプレッシャーも感じていました。

思い描いた味わいに調節するため、本醸造の前に二回試験醸造を行いました。理想は低温環境下での仕込みですが、まだ暖かい時期に仕込む必要があったこともあり、外気温の影響で温度管理にも苦労しました。20日程度欲しかった醪(もろみ)日数が16日〜17日しかない短期醪になってしまいました。本醸造から挑戦していたらどうなっていたことかと思います。

最終的な商品設計にも頭を抱えましたね。どんなコンセプトに着地させるかというマーケティング的な側面です。当社の試験醸造ではスッキリした味わいになる予想でしたが、本醸造では甘酸っぱくて香りの良いお酒に出来上がりました。メロン酵母のお酒は実際にメロンのようなフルーティーな香りがあり、結果的にコンセプトも固まりました。

「産学連携」をすることで商品にストーリーが生まれる

連携して成果が出た時の喜びを教えて下さい。

渡邊社長
メロン酵母には可能性を感じており、クラウドファンディングだけで終わりにするのではなく、今後も使いたいと思っています。「メロンのような香り」と「フルーティーな味わい」という他のお酒にはない特徴があるからです。今後はどんなお米を使うのか、どんな麹(こうじ)を使うのか、色々と組み合わせを変えてみようかと思っています。加えて、このお酒には地元での産学連携というストーリーがあります。今まで弊社が日本酒のコンクール等に応募することはほとんど無かったのですが、もしもメロン酵母のお酒を出品し、入賞することがあればもっと大きな達成感があるかもしれないですね。

田中教授
たしかに、今回のお酒は言うなれば「第一期生」ですから、今後更に良くなっていく可能性があると思います。初めて使う野生酵母ですから、何がどうなるのか分からない状況でした。試験醸造と本醸造も雰囲気は全く違ったでしょうし、お酒造りが相当難しかったのではないかと思います。そのため、実際のお酒が出来上がった時には私たちもとても喜びを感じましたね。

さいごに、今回のような産学連携に興味をお持ちの方々にメッセージをください。

渡邊社長
外部との連携からイノベーションは生まれやすいので、弊社では新しいことをスタートする際、積極的に外部へ目を向けるように意識しています。

田中教授
一般の企業さんは「大学と連携する」という手段がなかなか思い浮かばないかもしれません。大学としては「産学連携」のお誘いはいつでも大歓迎ですし、外部との連携専用の窓口も開設しています。加えて、学生たちも自身の卒業研究が地域の企業さんの役に立ったり、研究成果が商品化されたりすれば、研究意欲も湧きます。是非とも多くの企業さんにお声がけいただきたいですね。
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