INTRODUCTION

of corporate cases and initiatives

取組事例紹介

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2022.01.24
MSファーム株式会社
PROFILE
2012年設立。代表取締役 佐野 浩一。
新見漁協が2000年から始めたチョウザメの養殖を2015年に引継ぎ、現在15,000尾以上のチョウザメを養殖し、年間100kgを超えるキャビアを製造。新見フレッシュキャビアとして販売し、岡山県内では百貨店や高速道路のSA・道の駅などのほか高級ホテルや料理店の料理で利用されている。
インタビュアー:秋葉優一
高梁川流域クロッシング
プロジェクトマネージャー
株式会社クラビズ 代表取締役
MS Farm Co., Ltd.
キャビアのおいしさとアイディアの活用で
知名度アップと新見の活性化を目指す。

地元新見の活性化を願い、希少なチョウザメ養殖の経営を引き継ぐ。

まずは、チョウザメの養殖事業を始めるに至った経緯を教えてください。

(飯田)もともとは、アユやアマゴの養殖をしていた新見漁協組合が、次の事業の柱として始めたものです。2000年から飼育をはじめ、数年かけてキャビアが生産できるようになりましたが、人材不足等で事業継続が難しくなりました。そこに、当社の社長である佐野が名乗り出て、2015年に事業承継したのがスタートです。

佐野社長が事業承継をしようと思った理由はご存知ですか?

(村上)社長は新見出身で、地元愛がとても強い人です。地元の漁協が取り組んできた事業がとだえるのは惜しいということもありますが、一番の要因は、何より地元を活性化したいという強い思いだったと聞いています。
※MSファーム株式会社 事業部長
 村上正英 氏

サメと聞くと、海の生き物のように思いますが、山に囲まれた新見でなぜチョウザメなのでしょうか。

(飯田)知られていませんが、チョウザメは淡水魚で、主な生息地であるヨーロッパでは、ミネラル分が豊富な硬水が湧き出ています。カルスト台地で形成されたこの一帯も良質の硬水が湧き出ており、チョウザメの生育に適していたことが大きいです。
※MSファーム株式会社 養殖部 養殖課 課長
 飯田光俊 氏

事業承継後、現在の状況はどうでしょうか。

(村上)チョウザメは、3年目で一尾ずつお腹を切り、目視でオス・メスの性別を見極め、キャビアが獲れるまで最低でも7年もの年月が必要となります。このことからもキャビアが希少で高価なものである理由が分かっていただけるかと思います。

(飯田)当初は稚魚を購入して育てていましたが、現在は海外から受精卵を購入するなどして、当社で繁殖をさせるということも進めています。効率的なキャビアの生産方法を模索しつつ、キャビアやチョウザメの肉を使った新たな加工品など、商品開発を広げている状況です。

岡山が誇る料理の大家、湯浅シェフとの出会いから商品構想の現実化が加速。

養殖事業は、佐野社長が手がけてこられたインターネット事業などとは全く違う業種ですが、地元を応援したいという思いだけで始められるものなのでしょうか。

(村上)当社の社長は、業種を問わず新分野への事業展開に大変積極的です。今はエネルギー事業に主軸を置いています。太陽光、風力、バイオマス…… と。並行してMSファームのチョウザメの養殖事業であったり、北海道のニシムラファミリー※というお菓子メーカーも事業承継しています。その繋がりで北海道・富良野産バターを仕入れて、MSファームで開発した「キャビアバター」という商品にも使用するなど、事業間の連携も図っています。
※ニシムラファミリー:1977年創業の北海道千歳市発祥の洋菓子店。2018年から苫小牧市の合同会社どさんこエナジー(MSファームの佐野浩一社長が同じく代表を務める)が事業を譲受して経営を引き継いでいる。

「キャビアバター」などの商品開発はどのような過程でおこなわれているのでしょうか。

(飯田)かなり前から「キャビアバター」の構想はあって、社内で試作もしてみましたが固くなって全然美味しくなくて。ちょうどその頃に社長を通じて、岡山の有名ホテルで総料理長として活躍された湯浅シェフ※とのご縁をいただきました。相談したところ、湯浅シェフから、北海道のバターを使ってキャビアバターのレシピを作るから、一緒にやってみないかとご提案があり、タイミング良く開発に携わっていただくことになりました。そこから一気に商品開発が進みました。
※湯浅シェフ:「ムッシュ湯浅」こと湯浅薫男さん。高梁市出身の料理人。元ホテルオークラ岡山総料理長。2005年の岡山国体では皇室関係の料理を担当。

自社以外と繋がり、共に作り、新たな道を切り拓く、まさにオープンイノベーションだと感じます。そのほかにも、商品のラインナップを見ていると面白いですね。

(村上)みなさん疑問に思うことがあるかと思うんですけど、オスかメスかがわかるのに3年、キャビアを獲れるまで7年、じゃあそもそも卵が獲れないオスはどうなるんだって思いませんか? 池のスペースも限られますし、餌のコストもかかるので永遠に飼い続けることはできません。

(飯田)オスと判別されたチョウザメの肉は、地元の小中学校の給食やレストランで使ってもらっています。しかし、キャビアの収量を増やすために養殖尾数を増やしたこともあり、かなり余っている状態です。そこで、湯浅シェフに相談したところ、「肉をただ供給するのではなく、おいしい加工品を作って販売すれば、幅広い層で食べていただけるんじゃないか。」と助言をいただきました。そこから「チョウザメスモーク」をはじめ、現場の私たちの意見を取り入れていただきながら、湯浅シェフと一緒に商品開発を続けています。

湯浅シェフとの出会いで、新商品の開発、またオスの肉をどうするかという御社の課題も同時に解決されたんですね。

(飯田)試作をして何日も何ヶ月もかけて取り組んでくれているんですよ。当社の社員はこれまでキャビアの業界で働いていたわけではないので、おいしいキャビアの基準やチョウザメの調理の仕方もわかりませんでした。湯浅シェフと出会う前に、スモークの商品化にも一度挑戦したことがあるのですが、その時はあまりおいしくなく、原因も分からず開発を止めてしまった経緯があります。

湯浅さんが関わってから、構想から商品化までのスピード感が全く違いましたか?

(村上)そうですね。形にするだけではなく、本当においしいものを作ることのできる方です。キャビアは特にヨーロッパが本場ですので、そういった料理を熟知されている湯浅シェフとの出会いは大きかったです。とてもエネルギッシュな方で、まだまだやるぞ、加工品を作るぞっておっしゃっています。様々なアイディアで手を変え品を変え挑戦してくださり、営業を担当している者としましては、本当に心強いです。

時流に乗って “来るもの拒まず” 、柔軟な姿勢で販路を広げる。

今の一番の主力は何ですか?

(飯田)商品で言うとやはり「生キャビア」が主力です。また一昨年に発売した「キャビアバター」、肉の加工品も人気が出てきて、「チョウザメスモーク」はリピーターもできました。

販路はどのように開拓したのでしょうか。

(村上)漁協の時には百貨店をメインに販路を広げていたようですが、当社が引き継いだあと、諸事情により販路が一度ゼロになりました。どこの百貨店にも入れず、3年ぐらいは本当に苦労しました。漁協時代からの一部のお客様と、そこから少しづつ、商談会などで販路を広げ、新見市から「ふるさと納税」の返礼品として取り扱っていただけるようになり、今では、自社のオンラインショップ「蝶鮫屋」や、Yahoo、楽天などにも出店しています。

販売先はどこが多く占めているのでしょうか。

(村上)ホテルやレストランなどの飲食店からのご注文が、コロナ禍で激減してしまい、現在はZoom商談によるECサイトへの普及、ふるさと納税、カタログギフトなどの分野を攻めております。
今はとにかく、“新見市のMSファームがつくっている生キャビア” をもっと多くの人たちに知ってもらいたいという思いから、来るものは拒まずとあらゆる商談の機会を大切にしております。

時流の影響で、販路開拓の考え方にも柔軟性が必要になってきますね。

(村上)キャビアは高価格帯の商品なので、百貨店という切り口は重要で、コロナ禍が落ち着き次第もっと広げていきたいと考えています。昨年後半には、高級食材を取り扱う料理店にもご縁をいただきました。
今後、高級食材を取り扱うお店への定期的な納品ができるようになれば、出荷数の安定にも繋がります。飲食店の未開拓地区は無限大、チャンスがあれば一人でも多くの料理人に「新見産の生キャビア」を知っていただきたいと思っております。

「キャビアといえば新見のMSファーム」
キャビアのおいしさとアイディアの活用で、知名度アップを目指す。

この事業を盛り上げていく上で、夢や展望はありますか?

(村上)社長の考え方としては、地元出身者だけでこの会社を成立させたいという強い思いがあります。
また、新見産のキャビアをもっと身近に食べていただけるような仕組みを作りたいです。さらには、チョウザメのお肉が普通の魚として、認知されるようになりたいですね。岡山県内の方だけでも、高梁川の綺麗な水で育った「新見の魚」として食べていただきたいです。スーパーで、ぶりやマグロと並ぶように違和感なく一般的に流通するようになることが私の願いです。

MSファームさんの今後の課題はなんでしょうか。

(飯田)営業面からいうと、チョウザメあるいはMSファームの知名度をあげることです。新見周辺はともかく、岡山県内でもまだ知られていないので「キャビアといえば新見のMSファーム」とすぐ浮かぶぐらい一般的に知られるようになりたいです。チョウザメ自体も、もっと知ってほしいですね。

(村上)名前からサメの一種と勘違いされることもありますが、実はサメでもなんでもなくて。背中にある大きな鱗がチョウチョみたいな形をしていることと、全体的な形がサメに似ていることからチョウザメと名付けられたみたいです。「サメ」とついていると響きがちょっと怖いので、可愛い名前があればいいなとも思っています。

(飯田)あと生キャビアをぜひ体験してみてほしいです。みなさんのキャビアのイメージは、おそらくプチプチしていて塩辛くて黒いというものだと思いますが、塩辛いのは海外から輸入するために、塩分を効かせて保存をよくするためです。「生(なま)」は、フレッシュでプチプチし過ぎずしっとりしていて、素材としてこんなにおいしいんだということを知っていただきたいですね。そのような機会を増やしていきたいです。

(村上)2015年に引き継いでからこれまで試行錯誤でやってきて、今が一番登り坂で苦しい時なのかなと思います。これからもお客様に喜んでいただける商品を追求しながら、どんなチャンスにも貪欲に取り組んでいきたいと考えています。

新見という自然に恵まれた環境からつくられる、チョウザメやその付加価値が、高梁川流域圏の事業者間連携などを通じて、さらに広がっていく仕組みができるといいですね。

(飯田)私自身、この会社で6年、他の社員も3〜4年となると、どうしても固定概念に囚われてしまいがちで、こんなことしたいんだけど、できないんだろうなって諦めてしまうところがあります。だから、全く違う業界の意見を聞くのは面白いと思います。販路開拓だけではなく、チョウザメやMSファームの知名度を上げるアイディアや、新見の活性化なども含めていろんな意見を聞いてみたいというのはあります。そして面白そうなことがあれば積極的にどんどんやってみたいと思っています。
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