INTRODUCTION

of corporate cases and initiatives

取組事例紹介

大和被服株式会社様 専務取締役  畑 利昌 氏
PROFILE
1925年に創業した縫製加工会社。自社の縫製工場を強みに、官公庁の制服の製造・販売などを行っている。2021年4月に社内でSDGs推進プロジェクトチームを発足し、廃棄消防服を使用したアップサイクルを開始。消防局と協同で製造したアップサイクル品を小学校へ寄附し、大きな話題を呼んだ。全国の消防局と連携しながら、新事業のファクトリーブランド「Retur bull」を展開中。縫製業界の人材育成、国内縫製技術の持続化にも力を入れている。
インタビュアー・ライター・カメラマン:
倉敷市地域おこし協力隊 岩佐りつ子
TOSHIMASA HATA
大正時代から続く老舗の縫製工場から生まれた、廃棄消防服のアップサイクル
「#守るを繋ぐ」に込めた想い。

創業100年を目前にして始まった、新たな挑戦



長年官公庁の制服を手がけてきた御社が、廃棄消防服のアップサイクルに取り組んだ理由を教えてください。

廃棄消防服のアップサイクルは、2021年の岡山市消防局様との共同制作からスタートしました。モデルチェンジに伴い発生する約500着の廃棄消防服について、納入業者だった弊社に相談の声がかかったのです。
当時、弊社も「なにか新しい取り組みに挑戦しなければ」と考えていたタイミングでした。縫製業界は、現代表の父親に「継がないほうがいい」と言われるほどの斜陽産業でしたし、私が入社した時には仕事も減少していたので、ちょうど良い機会だったと思います。
岡山市消防局様とお話をする中で、消防服を廃棄するには多額の費用がかかるという現実を初めて知りました。防火性・防水性などの高性能な特徴を持つ消防服を捨ててしまうのは勿体ないですし、消防局の方々も処分に困っていたので、当時話題だったSDGsと絡めて、消防服の再活用に挑戦しました。
岡山市消防局様の「せっかくなら子ども達に寄附したい」という想いから、防災頭巾を作って地域の小学校に寄附したところ、多くのメディアに取り上げていただきました。想像以上の反響があり、廃棄消防服のアップサイクルを事業化することにしたのです。

特殊な性能を持つ消防服を加工するにあたり、苦労した点はありますか?またどのように工夫されましたか

消防服の生地は、燃えにくい・熱に強い・水に強いという特徴があります。過酷な環境下で消防士の命を守るために、非常に頑丈な作りをしているため、分解・縫製には苦労しました。特に時間がかかったのが分解作業です。最初はばらすのに半日もかかりました。縫う際にも、ミシンの針が進まなかったり、どの部分の生地を使用するか悩んだり、今までにない困難にぶつかりましたが、現場の従業員が糸や針の太さを試行錯誤してくれたおかげで、現在はスムーズに作業できています。
逆にプロダクトのアイデアには困りませんでした。岡山市消防局様の防災頭巾は、20代の若手従業員が中心となってアイデアを出してくれました。学校でSDGsを学んでいる世代なので、長年ものづくりに携わっている私たちよりも、発想が柔軟なのです。

人を守り、地域を守った消防服が生まれ変わる。
「Retur bull」を通じて、守る想いは受け継がれていく。

新事業のファクトリーブランド「Retur bull」のコンセプトは「#守るを繋ぐ」。どのような想いを込めていますか

ただリサイクルするのではなく、「市民の命を守る」という消防士の使命や想いを製品に生かすことがもっとも重要です。そして、その想いをお客様に届けることが私たちの役割だと考えています。
もともと「Retur bull」では、生地の特性を生かしたアウトドアグッズを制作していました。ですが、防災品の寄附を続けていくうちに「消防士の命を守った服」という事実が、強い付加価値になっていると気が付きました。防災品を受け取ってはしゃぐ子ども達を見ていると、子ども達にとって消防士がヒーローなのだと実感します。
現在は、防災グッズの制作にも力を入れています。お守りのように消防士の存在を身近に感じていただけたらうれしいですし、防災意識を持つきっかけとなる製品であり続けたいです。

ブランドの反響はいかがですか

ありがたいことに需要を感じています。2024年は6つの消防局と連携して、商品数を増やす取り組みをおこないました。2年目に入ってようやく本格的に事業として成立してきたと思います。
ECサイトの利用者の半分以上は関東のお客様です。関東は特に防災の意識が強いのか、ストーリー性のある「Retur bull」の防災用品に魅力を感じてくださるお客様が多いようです。
また、各方面から「こんなアイテムが欲しい!」とアイデアを頂くことが増えました。消防士の方からは「燃えにくいポーチが欲しい」というお声を頂いたり、消防士のファンからは「汚れはあえて残したままがいい」というご意見をいただいたり……私たちの想定を超えたアイデアがたくさん届くので、製品のブラッシュアップが止まりません。

まずは社内の小さな変化から。取り組みの輪を広げた先に見据える未来とは

アップサイクルを始めてから、変化を感じられたことはありますか

従業員のモチベーションが上がり、会社全体の団結力が強くなったと思います。
廃棄消防服のアップサイクルは、長い歴史を持つ大和被服にとって挑戦であり、大きな変化でもありました。今までにないものを作ることは、従業員にとってもハードルが高いので、いきなり新事業を始めてもここまで上手くいかなかったと思います。
まずは「月に一度、作業場所を変える」・「20代の若手社員の採用を増やす」など、新しい取り組みを始めて、従業員に少しずつ受け入れてもらいました。従業員の気持ちを揃えて風土を整えたからこそ、新事業をスムーズに始められたのだと思います。
まだまだ手探りの事業ですが、応援してくださる方も多いので、やりがいは非常にありますね。従業員も楽しみながら取り組んでいます。

高梁川クロッシングフォーラムや、岡山イノベーションコンテストへの参加など、取り組みの輪を広げていらっしゃるかと思います。トライしてみたご感想はいかがですか

高梁川クロッシングフォーラムでは、倉敷市内の企業とのつながりが生まれました。「廃棄消防服のアップサイクル」がテーマのプロトタイプのお披露目で、弊社はレジャーシートとポーチを提案しました。見ていただいた市内企業の方々が「いつか一緒になにかをやりましょう」と声を掛けてくださり、貴重な横のつながりができたと感じます。
岡山イノベーションコンテストは、我々の取り組みが専門家から見てどのような評価を受けるのか気になり参加しました。「社会の役に立っている」という自信をつけて、社内のモチベーションを上げたかったのです。結果、ビジネス賞を受賞することができて、アップサイクルは今後も続ける価値のある事業だと背中を押されました。こちらも挑戦してみて良かったと思います。

今後の展望について教えてください。

全国の消防局と連携して、この取り組みをより多くの人に知ってもらいたいと思っています。また、大学から共同研究のお声掛けもいただいているので、防災や教育を専門とする先生方と一緒に製品開発して、子どもの防災用品の展開にも力を入れていきます。
最終的には、従業員の給料を上げてきちんと還元していきたいです。斜陽産業ですが、縫製業界全体に少しでも明るい影響を与えていけたらと思います。今後も従業員が前向きに取り組めるように努力を続けます。

最後に、高梁川流域で新たなものづくりに挑戦しようと考えている方々にメッセージをお願いします

長い間、同じ事業に取り組んできた会社ほど、新しい事業をスタートするのは難しいと思います。まずは、従業員が新事業に取り組みやすい風土を作ること。「何をやるか」ではなく「やるためにはどうするか」という考え方を持つことが重要だと思います。
特に、私たちのように職人が多い工場系は、大きな変化を起こすことが難しいです。大きな目標を最初から立てるのではなく、目の前の小さな目標から達成すること。社内で起こした小さな変化が、やがて地域の変化、全国への変化と広がっていくのだと思います。
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